神皇正統記 / 巻四 天命と人望
されど二をならべてあらそふ時にこそ傍正の疑もあれ、群臣皇胤なきことをうれへて求出奉りしうへに、その御身賢にして天の命をうけ、人の望にかなひまし〳〵ければ、とかくの疑あるべからず。
書き下し
されど二をならべてあらそふ時にこそ傍正の疑もあれ、群臣皇胤なきことをうれへて求出奉りしうへに、その御身賢にして天の命をうけ、人の望にかなひましましければ、とかくの疑あるべからず。
現代語訳
とはいえ、二つを並べて争うときにこそ正統かどうかの疑いも生じるのであって、群臣が皇統の絶えることを憂えて探し出し申しあげたうえに、その御身が賢明で天の命を受け、人の望みにかなっておられたのだから、あれこれの疑いがあるはずもない。
解説
継体天皇が遠縁から迎えられたことに疑義はないと結論する一段で、その根拠が三つ並ぶ。「賢にして」「天の命をうけ」「人の望にかなひ」——本人の能力、天の承認、人々の支持。血統は前提として置かれるが、それだけでは足りず、この三つがそろって初めて疑いが消えるという。そして冒頭の「二をならべてあらそふ時にこそ傍正の疑もあれ」も鋭い。正統かどうかが問題になるのは、二人が並んで争っているときだけだ、と。争いがなければ誰も系譜を詮索しない。逆に言えば、正統性の議論が始まったこと自体が、すでに争いが起きている証拠である。南北朝の当事者が書いていることを思えば、これは自分たちの立場についての自覚でもある。
この章句が説くこと
継体天皇賢・天命・人望傍正の疑正統性
関連する章句
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『神皇正統記』巻三 賢にして天命但、皇胤たえぬべかりし時、群臣択求奉き。賢名によりて天位を伝給へり。天照太神の御本意にこそとみえたり。皇統に其人ましまさん時は、賢諸王おはすとも、争か望をなし給べき。皇胤たえ給はんにとりては、賢にて天日嗣にそなはり給はんこと、即又天のゆるす所也。此天皇をば我国中興の祖宗と仰ぎ奉るべきにや。
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『神皇正統記』巻三 第二十七代 継体天皇もろこしにもかゝるためしあり。名をつくることもつゝしみおもくすべきことにや。それもおのづから天命なりといはゞ、凡慮の及べきにあらず。此天皇の立給しことぞ思外の御運とみえ侍る。
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『神皇正統記』巻四 書きのこす理由大かた天皇の世つぎをしるせるふみ、昔より今に至まで家々にあまたあり。かくしるし侍もさらにめづらしからぬことなれど、神代より継体正統のたがはせ給はぬ一はしを申さんがためなり。我国は神国なれば、天照太神の御計にまかせられたるにや。されど其中に御あやまりあれば、暦数も久からず。又つひには正路にかへれど、一旦もしづませ給ためしもあり。これはみなみづからなさせ給御とがなり。冥助のむなしきにはあらず。
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『神皇正統記』巻四 第五十八代 光孝天皇神武より景行まで十二代は御子孫そのまゝつがせ給へり。うたがはしからず。日本武の尊世をはやくしましゝによりて、御弟成務へだゝり給しかど、日本武の御子にて仲哀伝へましましぬ。仲哀・応神の御後に仁徳つたへ給へりし、武烈悪王にて日嗣たえましゝ時、応神五世の御孫にて、継体天皇えらばれ立給。これなむめづらしきためしに侍る。
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『神皇正統記』巻一 この書のこと唯我国のみ天地ひらけし初より今の世の今日に至まで、日嗣をうけ給ことよこしまならず。一種姓の中におきてもおのづから傍より伝へ給しすら猶正にかへる道ありてぞたもちましましける。是しかしながら神明の御誓あらたにして余国にことなるべきいはれなり。抑、神道のことはたやすくあらはさずと云ことあれば、根元をしらざれば猥しき始ともなりぬべし。其つひえをすくはんために聊勒し侍り。神代より正理にてうけ伝へるいはれを述ことを志て、常に聞ゆる事をばのせず。しかれば神皇の正統記とや名け侍べき。
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『神皇正統記』巻三 第二十六代 武烈天皇〜第二十七代 継体天皇此天皇天下を治給こと八年。五十八歳おましましき。 ○第二十七代、第二十世、継体天皇は応神五世の御孫也。応神第八の御子隼総別の皇子、其子大迹の王、其子私斐の王、其子彦主人の王、其子男大迹の王と申は此天皇にまします。御母振姫、垂仁七世の御孫也。越前国にましける。武烈かくれ給て皇胤たえにしかば、群臣うれへなげきて国々にめぐり、ちかき皇胤を求奉けるに、此天皇王者の大度まして、潜龍のいきほひ、世にきこえ給けるにや。群臣相議て迎奉る。三たびまで謙譲し給けれど、つひに位に即給ふ。ことし丁亥の年也。大和の磐余玉穂の宮にまします。仁賢の御女手白香の皇女を皇后とす。即位し給しより誠に賢王にましましき。応神御子おほくきこえ給しに、仁徳賢王にてましまししかど、御末たえにき。隼総別の御末、かく世をたもたせ給こと、いかなる故にかおぼつかなし。仁徳をば大鷦鷯の尊と申。第八の皇子をば隼総別と申。仁徳の御代に兄弟たはぶれて、鷦鷯は小鳥也、隼は大鳥也と争給ことありき。隼の名にかちて、末の世をうけつぎ給けるにや。
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