神皇正統記 / 巻三 賢にして天命
但、皇胤たえぬべかりし時、群臣択求奉き。賢名によりて天位を伝給へり。天照太神の御本意にこそとみえたり。皇統に其人ましまさん時は、賢諸王おはすとも、争か望をなし給べき。皇胤たえ給はんにとりては、賢にて天日嗣にそなはり給はんこと、即又天のゆるす所也。此天皇をば我国中興の祖宗と仰ぎ奉るべきにや。
書き下し
但、皇胤たえぬべかりし時、群臣択求奉き。賢名によりて天位を伝給へり。天照太神の御本意にこそとみえたり。皇統に其人ましまさん時は、賢諸王おはすとも、争か望をなし給べき。皇胤たえ給はんにとりては、賢にて天日嗣にそなはり給はんこと、即又天のゆるす所也。此天皇をば我国中興の祖宗と仰ぎ奉るべきにや。
現代語訳
ただし、皇統が絶えようとしたとき、群臣が選んで探し求め申しあげた。賢いという名声によって皇位を伝えられたのである。天照大神の御本意にかなっていたと見える。皇統にふさわしい人がおられるときは、賢い諸王がいたとしても、どうして望みを起こしてよかろうか。皇統が絶えようとするときに限っては、賢い人が皇位に備わることは、それもまた天が許すところである。この天皇をこそ、わが国の中興の祖と仰ぐべきであろう。
解説
武烈で血筋が絶え、応神五世の孫という遠縁から継体天皇が迎えられた一件についての評である。親房は二段構えの原則を立てる。第一に、正統の人がいるときは、どんなに賢くても他の者が望んではならない。第二に、正統が絶えるときに限っては、賢い者が就くことを天が許す。血統を第一に置きながら、それが尽きた場合の抜け道を賢という一語で開けている。ここで「賢名によりて天位を伝給へり」と、選ばれた理由が能力の評判だったことをはっきり書いている点が重要だ。前章で「器にあらざれば伝ことなし」と言ったのと合わせて読むと、この書の血統論は思われているより弾力がある。後継者が絶えたとき何を基準に選ぶかという問いに、親房は「賢」と答え、しかもそれを天の許しと呼んだ。
この章句が説くこと
継体天皇賢名中興の祖後継者選び