呉子 / 応変篇
武侯問曰:「天久連雨,馬陷車止,四面受敵,三軍驚駭,為之奈何?」起對曰:「凡用車者,陰濕則停,陽燥則起;貴高賤下,馳其強車;若進若止,必從其道。敵人若起,必逐其跡。」
新字:武侯問曰:「天久連雨,馬陥車止,四面受敵,三軍驚駭,為之奈何?」起対曰:「凡用車者,陰湿則停,陽燥則起;貴高賤下,馳其強車;若進若止,必従其道。敵人若起,必逐其跡。」
書き下し
武侯問いて曰く、天久しく連雨し、馬陥り車止まり、四面に敵を受け、三軍驚駭せば、之を奈何せん、と。起対えて曰く、凡そ車を用うる者は、陰湿なれば則ち停まり、陽燥なれば則ち起つ。高きを貴び下きを賤しみ、其の強車を馳す。若しくは進み若しくは止まるも、必ず其の道に従う。敵人若し起たば、必ず其の跡を逐え、と。
現代語訳
武侯が尋ねた。長雨が続いて馬はぬかるみに足を取られ、戦車は動かなくなり、四方から敵を受けて全軍が驚き慌てている。どうすればよいか。呉起が答えて言った。およそ戦車を用いる者は、じめじめと湿っているときは動かず、日が照って乾いているときに動き出すものです。高い場所を選び低い場所を避けて、頑丈な車を走らせます。進むにせよ止まるにせよ、必ず通れる道筋に従って動く。もし敵が先に動き出したなら、その通った跡をたどって進めばよいのです。
解説
長雨でぬかるみ、車も馬も動かず、四方を敵に囲まれて全軍がうろたえている。極限の場面ですが、呉起の答えは驚くほど冷静です。乾くまで動くな、乾いたら動け。高い所を選び、低い所を避けよ。進むも止まるも、必ず通れる道を通れ。そして敵が先に動いたなら、その通った跡をたどれ、と。慌てて動くのではなく、条件が整うのを待つ。そして相手が先に動いてくれたなら、その足跡は「通れる道」の証明になるから、それを利用する。無理をせず、使えるものを使う姿勢が徹底しています。パニックの只中で必要なのは、新しい発想ではなく、当たり前の原則に立ち返ることだと教えてくれます。仕事でも、条件が悪いときに無理に動けば、消耗するばかりで傷が深くなります。動ける条件が整うまで待つ判断は、しばしば行動よりも勇気が要ります。そして先に動いた誰かの軌跡から学べることは多い。焦らず、条件を見て、通れる道を通る。地味ですが確実な指針です。