呉子 / 応変篇
武侯問曰:「吾與敵相遇大水之澤,傾輪沒轅,水薄車騎,舟楫不設,進退不得,為之奈何?」起對曰:「此謂水戰,無用車騎,且留其傍。登高四望,必得水情。知其廣狹,盡其淺深,乃可為奇以勝之。敵若絕水,半渡而薄之。」
新字:武侯問曰:「吾与敵相遇大水之沢,傾輪没轅,水薄車騎,舟楫不設,進退不得,為之奈何?」起対曰:「此謂水戦,無用車騎,且留其傍。登高四望,必得水情。知其広狭,尽其浅深,乃可為奇以勝之。敵若絶水,半渡而薄之。」
書き下し
武侯問いて曰く、吾敵と大水の沢に相遇い、輪を傾け轅を没し、水は車騎に薄り、舟楫は設けず、進退得ざらば、之を奈何せん、と。起対えて曰く、此を水戦と謂う。車騎を用うること無く、且く其の傍らに留まれ。高きに登りて四望すれば、必ず水の情を得ん。其の広狭を知り、其の浅深を尽くさば、乃ち奇を為して以て之に勝つべし。敵若し水を絶らば、半ば渡りて之に薄れ、と。
現代語訳
武侯が尋ねた。敵と大きな水辺の沢地で出くわし、車輪は傾き、轅は水に沈み、水が戦車や騎兵に迫ってくる。舟の備えもなく、進むことも退くこともできない。どうすればよいか。呉起が答えて言った。これを水戦といいます。戦車や騎兵は使わず、しばらくその傍らに留めておきます。高い所に登って四方を見渡せば、必ず水の様子がつかめます。水面の広さ狭さを知り、深さ浅さを残らず調べ上げれば、そこではじめて奇策を立てて勝つことができます。もし敵が川を渡ろうとするなら、半ば渡ったところを狙って攻めかかるのです。
解説
水辺で身動きが取れない。呉起はまず、使えない道具は使うなと言います。戦車や騎兵は水では役に立たないから、いったん脇に置く。そして高い所に登って全体を見渡し、水の広さと深さを徹底的に調べる。策はその後だ、というのです。「奇を為す」——奇策が可能になるのは、地形と条件を知り尽くしてはじめてであって、情報のない奇策はただの博打だ、という順序がここに示されています。最後の「半ば渡りて之に薄れ」は、敵が最も無防備になる瞬間を捉えよということです。渡河の途中は、前も後ろも力を出せない。仕事でも同じことが言えます。状況が変われば、これまで通用した道具や手法が突然使えなくなります。そのとき無理に使い続けるのではなく、いったん置いて、まず全体を見渡し、条件を測る。高い所に登って見る、つまり視点を上げて情報を集めることが、次の一手の前提になります。焦って動く前に、まず見る。
この章句が説くこと
水戦条件を測る視点を上げる情報が先士気地形
関連する章句
-
孫子・行軍篇水を絶てば必ず水に遠ざかる。客水を絶ちて来たらば、之を水内に迎うる勿かれ。半ば済らしめて之を撃つは利なり。戦わんと欲する者は、水に附きて客を迎うる無かれ。生を視て高きに処り、水流を迎うる無かれ。此れ水上に処るの軍なり。
-
『呻吟語』外篇・品藻・士氣と傲氣士氣は無かる可からず、傲氣は有る可からず。士氣なる者は、人己の分に明らかにして、正を守りて詭隨せず。傲氣なる者は、上下の等に昧くして、高きを好みて位に素せず。自ら處する者は每に人に傲るを以て士氣と為し、人を觀る者は每に士氣を以て人に傲ると為す。悲しいかな。故に惟だ士氣有る者のみ能く己を謙りて人に下る。
-
孫子・作戦篇故に智将は敵に食するを務む。敵に食する一鍾は、吾が二十鍾に当たり、萁稈一石は、吾が二十石に当たる。
-
啓発録・振氣此気は生ある者にはみなある者にて、禽獣にさへこれありて、禽獣にても甚しく気の立たる時は、人を害し人を苦しむことありまして、人に於てをや。人の中にても士は一番此気強く有之故、世俗にこれを士気と唱へ、いかほど年若な者にても両刀を帯したる者に不礼を不致は、此士気に畏れ候事にて、其人の武芸や力量や位職のみに畏れ候にてはこれなし。
-
司馬法・用眾親に書するを絶つ、是れを顧みるを絶つの慮と謂う。
-
尉繚子・兵教下今戦国相攻め、大いに有徳を伐つ。伍よりして両、両よりして師、其の令を一にせず、率ね民心をして定まらざらしめ、徒らに驕侈を尚び、謀患辨訟し、吏其の事を究め、累ねて且に敗れんとす。日暮れ路遠く、還るに剉気有り、師老い将貪り、争掠して敗れ易し。凡そ将軽く、塁卑く、衆動けば、攻むべきなり。将重く、塁高く、衆懼るれば、囲むべきなり。凡そ囲むには必ず其の小利を開き、漸く夷弱ならしむれば、則ち節吝して食はざる者有り。衆夜撃つ者は、驚くなり。衆事を避くる者は、離るるなり。人の救を待ち、戦を期して蹙まるは、皆心失はれて気傷るるなり。気を傷れば軍を敗り、曲謀は国を敗る。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る