呉子 / 応変篇
武侯問曰:「車堅馬良,將勇兵強,卒遇敵人,亂而失行,則如之何?」起對曰:「凡戰之法,晝以旌旗旛麾為節,夜以金鼓笳笛為節。麾左而左,麾右而右。鼓之則進,金之則止。二吹而行,再吹而聚,不從令者誅。三軍服威,士卒用命,則戰無彊敵,攻無堅陳矣。」
新字:武侯問曰:「車堅馬良,将勇兵強,卒遇敵人,乱而失行,則如之何?」起対曰:「凡戦之法,昼以旌旗旛麾為節,夜以金鼓笳笛為節。麾左而左,麾右而右。鼓之則進,金之則止。二吹而行,再吹而聚,不従令者誅。三軍服威,士卒用命,則戦無彊敵,攻無堅陳矣。」
書き下し
武侯問いて曰く、車堅く馬良く、将勇にして兵強きも、卒かに敵人に遇い、乱れて行を失わば、則ち之を如何せん、と。起対えて曰く、凡そ戦の法は、昼は旌旗旛麾を以て節と為し、夜は金鼓笳笛を以て節と為す。左に麾けば左し、右に麾けば右す。之を鼓すれば則ち進み、之を金すれば則ち止まる。二たび吹けば行き、再び吹けば聚まる。令に従わざる者は誅す。三軍威に服し、士卒命を用うれば、則ち戦うに彊敵無く、攻むるに堅陳無し、と。
現代語訳
武侯が尋ねた。戦車は堅固で馬も良く、将は勇敢で兵も強い。それでも突然敵に出くわして、混乱し隊列を失ってしまったら、どうすればよいか。呉起が答えて言った。およそ戦いの決まりとして、昼は旗や指揮旗を合図とし、夜は鉦や太鼓、笛の音を合図とします。指揮旗が左に振られれば左へ、右に振られれば右へ動く。太鼓が鳴れば進み、鉦が鳴れば止まる。笛が二度吹かれれば進み、もう一度吹かれれば集まる。この命令に従わない者は処罰します。全軍がこの規律に服し、兵士たちが命令どおりに動くようになれば、戦って勝てない強敵はなく、攻めて破れない堅陣もありません。
解説
応変篇の冒頭は、不意打ちに遭って隊列が崩れたらどうするか、という問いから始まります。呉起の答えは意外なほど地味です。奇策ではなく、昼は旗、夜は音という合図の取り決めを徹底せよ、と言うのです。旗が左なら左、太鼓なら前進、鉦なら停止。誰もが同じ合図を同じ意味で受け取れる状態をつくり、それに従わない者は罰する。混乱に強い組織とは、混乱してから頭を働かせる組織ではなく、混乱しても勝手に体が動く約束事を持っている組織だ、というわけです。装備が良く人が優秀でも、それだけでは崩れる。逆に約束事が共有されていれば、強敵にも堅陣にも対応できる。現代でも、事故やトラブルの初動で差がつくのは、頭の良さより「決めてあるかどうか」です。誰に何を、どの順番で伝えるか。判断が割れたとき誰が決めるか。平時のうちに合図を決め、訓練しておくこと。それが応変の土台になります。
この章句が説くこと
応変の土台合図の共有規律混乱時の初動
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