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呉子 / 治兵篇

武侯問曰:「凡畜卒騎,豈有方乎?」起對曰:「夫馬必安其處所,適其水草,節其飢飽。冬則溫燒,夏則涼廡。刻剔毛鬣,謹落四下。戢其耳目,無令驚駭。習其馳逐,閑其進止。人馬相親,然後可使。車騎之具,鞍、勒、銜、轡,必令完堅。凡馬不傷於末,必傷於始;不傷於飢,必傷於飽。日暮道遠,必數上下。寧勞於人,慎無勞馬。常令有餘,備敵覆我。能明此者,橫行天下。」

新字:武侯問曰:「凡畜卒騎,豈有方乎?」起対曰:「夫馬必安其処所,適其水草,節其飢飽。冬則温焼,夏則涼廡。刻剔毛鬣,謹落四下。戢其耳目,無令驚駭。習其馳逐,閑其進止。人馬相親,然後可使。車騎之具,鞍、勒、銜、轡,必令完堅。凡馬不傷於末,必傷於始;不傷於飢,必傷於飽。日暮道遠,必数上下。寧労於人,慎無労馬。常令有余,備敵覆我。能明此者,横行天下。」

書き下し

武侯問いて曰く、「凡そ卒騎を畜うに、豈に方有りや」と。起対えて曰く、「夫れ馬は必ず其の処所を安んじ、其の水草を適にし、其の飢飽を節す。冬は則ち温かに焼き、夏は則ち涼しく廡す。毛鬣を刻剔し、謹みて四下を落とす。其の耳目を戢め、驚駭せしむること無かれ。其の馳逐を習わせ、其の進止を閑わす。人馬相親しみ、然る後に使うべし。車騎の具、鞍・勒・銜・轡は、必ず完堅ならしむ。凡そ馬は末に傷つかざれば、必ず始めに傷つく。飢えに傷つかざれば、必ず飽くに傷つく。日暮れ道遠くば、必ず数しば上下せよ。寧ろ人を労するとも、慎みて馬を労すること無かれ。常に余り有らしめ、敵の我を覆すに備う。能く此を明らかにする者は、天下に横行せん」と。

現代語訳

武侯が尋ねた。「兵馬を飼い養うのに、何か方法があるのか」。呉起は答えた。「馬は必ずその居場所を安らかにし、水と草を適切にし、飢えと満腹の加減を整えます。冬は温かく火を焚き、夏は涼しい日よけの下に置く。たてがみを刈り整え、蹄をていねいに手入れする。耳と目を落ち着かせ、驚かせないようにする。走ることに慣れさせ、進むと止まるを習熟させる。人と馬が互いに親しんで、はじめて使うことができます。車騎の道具、鞍・くつわ・はみ・手綱は、必ず完全で丈夫なものにする。およそ馬は、終わりで傷つかなければ、必ず始めに傷つく。飢えで傷つかなければ、必ず満腹で傷つくものです。日が暮れて道が遠いときは、必ず何度も乗り降りを繰り返す。人を疲れさせても、馬を疲れさせてはならない。常に余力を残しておき、敵が襲ってくるのに備えるのです。これをよくわきまえた者は、天下を自在に行くことができます」。

解説

馬の世話について語りながら、実は組織を支える資源の扱い方を説いた一段です。住まいを整え、水と草を適切にし、飢えも満腹も避け、季節に応じて温度を調え、驚かせない。細やかな配慮の積み重ねが説かれます。とりわけ響くのは、飢えで傷つかなければ満腹で傷つく、という一句。不足も過剰も、どちらも損なうという指摘です。そして人馬が互いに親しんで初めて使える、という順序。信頼関係が先で、成果はその後です。最後の「常に余力を残しておけ」という言葉は、この篇全体の結論と言えます。全力を出し切った状態では、不測の事態に対応できない。余力こそが、想定外への備えになる。組織運営でも、人も設備も予算も、限界まで使い切る運用は一見効率的に見えて、実はきわめて脆い。日常のこまやかな手入れと、あえて残しておく余白。この二つが、長く走り続けられる組織を作ります。

この一句を、あなたの毎日に。

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