呉子 / 治兵篇
吳子曰:「凡兵戰之場,立屍之地。必死則生,幸生則死。其善將者,如坐漏船之中,伏燒屋之下,使智者不及謀,勇者不及怒,受敵可也。故曰:用兵之害,猶豫最大;三軍之災,生於狐疑。」
新字:吳子曰:「凡兵戦之場,立屍之地。必死則生,幸生則死。其善将者,如坐漏船之中,伏焼屋之下,使智者不及謀,勇者不及怒,受敵可也。故曰:用兵之害,猶予最大;三軍之災,生於狐疑。」
書き下し
呉子曰く、「凡そ兵戦の場は、屍を立つるの地なり。必死なれば則ち生き、生を幸えば則ち死す。其の善く将たる者は、漏船の中に坐し、焼屋の下に伏すがごとし。智者をして謀るに及ばず、勇者をして怒るに及ばざらしめ、敵を受くるも可なり。故に曰く、兵を用うるの害は、猶予最も大なり。三軍の災いは、狐疑より生ず、と」。
現代語訳
呉子は言った。「およそ戦場とは、屍が立つ場所である。必死の覚悟でいれば生き、生き延びようと願えば死ぬ。よい将とは、水漏れする船の中に座り、燃える家の下に伏せているような心構えを持つ者だ。そうであれば、知恵ある者も策をめぐらす暇がなく、勇ましい者も怒りを起こす暇がない。そのまま敵を迎え撃つことができる。だから言うのだ。用兵における害は、ためらいが最も大きい。全軍の災いは、迷いから生じるのだ、と」。
解説
戦場を「屍が立つ場所」と表現するところに、呉起の冷徹さがあります。ここで説かれる要点は、迷いこそが最大の害だということ。優れた将は、水漏れする船の中や燃える家の下にいるような、切迫した覚悟を持っている。だからこそ、知恵者があれこれ策を練る余地も、血気にはやる者が怒りを募らせる余地もなく、事態にまっすぐ向き合える。逆に、決断を先送りする迷いは、全軍を災いに引きずり込む。組織においても、判断の遅れが最も高くつく場面はよくあります。情報が完全に揃うのを待つうちに機会は去り、迷っているあいだに現場の士気は削られていく。もちろん、拙速に決めよという話ではありません。決めるべき時が来たら、腹をくくって決める。そして決めた以上は迷わない。リーダーの迷いは組織全体に伝染し、それ自体が損失になる。決断の質と同じくらい、決断の速さが問われる場面がある、ということです。