言志四録 / 南洲手抄
漸必成事、惠必懷人。如歴代姦雄、有竊其祕者、一時亦能遂志。可畏之至。
新字:漸必成事、恵必懐人。如歴代姦雄、有竊其秘者、一時亦能遂志。可畏之至。
書き下し
漸は必ず事を成し、恵は必ず人を懐づく。歴代姦雄の如き、其の秘を竊む者有り、一時亦能く志を遂ぐ。畏る可きの至りなり。
現代語訳
順を追って着実に進めれば必ず事は成り、恩恵を施せば必ず人はなつく。歴代の悪知恵に長けた英雄(姦雄)の中には、この「漸」と「恵」の秘訣を盗み取った者がいて、一時的には目的を遂げた。まことに恐るべきことである。
解説
「漸(着実さ)」と「恵(恩恵)」という成功の法則の、危うい二面性を突いた一条です。段階を踏んで進めれば事は成り、恩を施せば人心は集まる——これは正道の原理です。ところが一斎は鋭く付け加えます。曹操のような「姦雄」も、この秘訣だけを盗んで一時は成功した、恐ろしいことだ、と。つまり、有効な手法は善にも悪にも使える。手段の巧みさは、それを用いる者の徳とは別物なのです。ノウハウやリーダーシップ論が流通する現代にも通じる警句——技術は、それを扱う人間の心根までは保証しない、という洞察です。
この章句が説くこと
漸進恩恵手段と徳姦雄
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