易経 / 繋辞下
履,和而至;謙,尊而光;復,小而辨於物;恆,雜而不厭;損,先難而後易;益,長裕而不設;困,窮而通;井,居其所而遷,巽,稱而隱。履以和行,謙以制禮,復以自知,恆以一德,損以遠害,益以興利,困以寡怨,井以辯義,巽以行權。
新字:履,和而至;謙,尊而光;復,小而辨於物;恒,雑而不厭;損,先難而後易;益,長裕而不設;困,窮而通;井,居其所而遷,巽,稱而隠。履以和行,謙以制礼,復以自知,恒以一徳,損以遠害,益以興利,困以寡怨,井以辯義,巽以行権。
書き下し
履は和して至る。謙は尊くして光る。復は小にして物に弁つ。恒は雑わりて厭わず。損は先には難くして後には易し。益は長く裕かにして設けず。困は窮して通ず。井は其の所に居りて遷る。巽は称いて隠る。履は以て行を和らげ、謙は以て礼を制し、復は以て自ら知り、恒は以て徳を一にし、損は以て害を遠ざけ、益は以て利を興し、困は以て怨みを寡なくし、井は以て義を弁じ、巽は以て権を行う。
現代語訳
履は、和やかでありながら目的に至る。謙は、尊くありながらなお光り輝く。復は、わずかな始まりでありながら物事をはっきり見分ける。恒は、さまざまなものに交わってなお飽きることがない。損は、初めは難しいが後には楽になる。益は、長く豊かでありながら作為をこらさない。困は、行き詰まってなお通じる。井は、その場に留まりながらも恵みは移り及ぶ。巽は、ふさわしくはかりながら身は隠れている。履によって行いを和らげ、謙によって礼を整え、復によって自らを知り、恒によって徳を一貫させ、損によって害を遠ざけ、益によって利を興し、困によって怨みを少なくし、井によって義を見分け、巽によって臨機の判断を行う。
解説
前の段に挙げられた九つの卦を、それぞれの性質と使いどころから説き直した一段です。目を引くのは、どの卦も一見矛盾する二つの側面を抱えている点です。履は和やかなのに目的に至る。謙はへりくだるのに光る。損は初めつらく後に楽になる。困は行き詰まってなお通じる。井は動かないのに恵みは広がる。片方だけでは徳になりません。柔らかさと確かさ、控えめさと存在感、痛みと回復。この両立こそが徳の姿だと示されています。後半では、それぞれをどう使うかが述べられます。復によって自らを知り、恒によって徳を一貫させ、損によって害を遠ざけ、困によって怨みを少なくする。とりわけ「困は以て怨みを寡なくす」は含蓄があります。苦しい局面は、人のせいにしたくなる場面ですが、そこで怨みを減らせるかどうかが徳の分かれ目だというのです。逆境は、誰かを責める機会ではなく、自分の器を試される場だと受け止めたいところです。