易経 / 繋辞下
弦木為弧,剡木為矢,弧矢之利,以威天下,蓋取諸睽。上古穴居而野處,後世聖人易之以宮室,上棟下宇,以待風雨,蓋取諸大壯。古之葬者,厚衣之以薪,葬之中野,不封不樹,喪期无數。後世聖人易之以棺槨,蓋取諸大過。
新字:弦木為弧,剡木為矢,弧矢之利,以威天下,蓋取諸睽。上古穴居而野処,後世聖人易之以宮室,上棟下宇,以待風雨,蓋取諸大壮。古之葬者,厚衣之以薪,葬之中野,不封不樹,喪期无数。後世聖人易之以棺槨,蓋取諸大過。
書き下し
木を弦にして弧と為し、木を剡りて矢と為す。弧矢の利、以て天下に威す。蓋し諸を睽に取る。上古は穴居して野処す。後世の聖人、之に易うるに宮室を以てし、上は棟、下は宇、以て風雨を待つ。蓋し諸を大壮に取る。古の葬る者は、厚く之に衣するに薪を以てし、之を中野に葬り、封ぜず樹えず、喪期に数无し。後世の聖人、之に易うるに棺槨を以てす。蓋し諸を大過に取る。
現代語訳
木に弦を張って弓をつくり、木を削って矢をつくった。弓矢の利便によって、天下に威を示した。これはおそらく睽の卦から取ったものであろう。大昔の人々は洞穴に住み、野に暮らしていた。後世の聖人はこれを改めて家屋を建て、上には棟、下には軒を設け、風雨に備えた。これはおそらく大壮の卦から取ったものであろう。いにしえの葬りは、遺体を薪で厚くおおい、野の中に葬るだけで、盛り土もせず木も植えず、喪の期間にも定めがなかった。後世の聖人はこれを改めて、棺と槨を用いるようにした。これはおそらく大過の卦から取ったものであろう。
解説
弓矢、家屋、棺。ここでも三つの制度や道具が、睽・大壮・大過という卦の象と結びつけて語られます。睽はそむき離れるかたちで、そこから遠くの敵を制する弓矢が生まれたとされます。大壮は大いに壮んなかたちで、そこから風雨を防ぐしっかりした建物が生まれる。大過は大きく過ぎるかたちで、そこから手厚く弔う棺槨の制が生まれる。いずれも、人がむき出しの自然のなかで暮らすことをやめ、間に仕組みを一枚はさむようになった歩みです。穴居から家屋へ、野ざらしから埋葬へ。文明とは、こうして人を守る覆いを一つずつ増やしていく営みだったと読めます。仕事に引き寄せれば、私たちも同じことをしています。属人的なやり方を仕組みにし、口頭のやり取りを記録にし、その場しのぎを制度にする。それは自由を減らすことのようでいて、実際には風雨から人を守る屋根を架けることです。何を覆い、何を開いておくか。その見極めが仕組みづくりの要になります。