易経 / 象伝
澤上有風,中孚;君子以議獄緩死。
新字:沢上有風,中孚;君子以議獄緩死。
書き下し
澤上に風有るは中孚なり、君子は以て獄を議して死を緩くす。
現代語訳
沢の上を風が吹きわたっている、これが中孚の形である。君子はこれにならって訴訟をよく議論し、死罪については執行を緩やかにする。
解説
中孚の卦は、下が沢、上が風という形です。風が沢の水面を吹き、その息づかいが水の底まで伝わっていく光景で、中孚とは「まことが内に満ちている」ことを意味します。まことの心は、風が水に触れるように、隔てなく相手の奥まで届きます。君子はこの誠にならい、罪をさばく場においては十分に議論を尽くし、とりわけ死罪については執行を急がず緩めるのだと説かれます。取り返しのつかない裁きだからこそ、真心をもって幾度も検め直すのです。仕事や経営でいえば、人を裁く場面での慎重さにあたります。処分や解雇のように、相手の人生に消えない傷を残す判断ほど、感情や勢いで決めてはなりません。事情を聴き、別の見方を持ち込み、時間をかけて議論を尽くす。厳しさが必要な場面でも、その根に相手を思うまことがあるかどうかを問う。誠は必ず通じるというのが、中孚の教える身の処し方です。