易経 / 象伝
澤滅木,大過;君子以獨立不懼,遯世无悶。
新字:沢滅木,大過;君子以独立不懼,遯世无悶。
書き下し
澤、木を滅するは、大過なり。君子以て獨立して懼(おそ)れず、世を遯(のが)れて悶(うれ)うること无し。
現代語訳
沢の水が木を水没させてしまっている、これが大過の卦の形である。君子はこの形に学び、ひとり立っても恐れず、世を離れても思いわずらうことがないのです。
解説
大過の卦は、兌(沢)の下に巽(木)がある形で、本来は水面に立つはずの木が、増水した沢に呑まれて沈んでしまっている姿を表します。大過とは、大いに過ぎる、常軌を超えるということ。中の陽が強すぎて上下の陰が弱く、棟木がたわむような、危うい非常時の卦です。そのような時に君子はどう身を処すか。象伝は、独立して懼れず、世を遯れて悶うること无し、と説きます。だれも味方がいなくても信じるところに立ち、たとえ理解されず退くことになっても、心に恨みや焦りを残さない。この静かな胆力こそが、常軌を超えた時を渡る力なのです。仕事や経営でいえば、業界の常識に反する判断を迫られる時、周囲が反対する中で一人決断しなければならない時が、まさに大過の局面です。孤立を恐れて多数に流されれば、木は沈んだままになる。かといって、わかってもらえないと嘆けば心が折れる。孤独に耐えつつ機嫌よくいられるかどうかが、非常時のリーダーの分かれ目です。