伝習録 / 黄省曾録
「人一日間,古今世界都經過一番,只是人不見耳。夜氣清明時,無視無聽,無思無作,淡然平懷,就是羲皇世界。平旦時,神清氣朗,雍雍穆穆,就是堯、舜世界。日中以前,禮儀交會,氣象秩然,就是三代世界。日中以後,神氣漸昏,往來雜擾,就是春秋、戰國世界。漸漸昏夜,萬物寢息,景象寂寥,就是人消物盡世界。學者信得良知過,不為氣所亂,便常做個羲皇已上人。」
新字:「人一日間,古今世界都経過一番,只是人不見耳。夜気清明時,無視無聴,無思無作,淡然平懐,就是羲皇世界。平旦時,神清気朗,雍雍穆穆,就是堯、舜世界。日中以前,礼儀交会,気象秩然,就是三代世界。日中以後,神気漸昏,往来雑擾,就是春秋、戦国世界。漸漸昏夜,万物寝息,景象寂寥,就是人消物尽世界。學者信得良知過,不為気所乱,便常做個羲皇已上人。」
書き下し
「人、一日の間に、古今世界、都て一番を経過す。只だ是れ人、見ざるのみ。夜気、清明なる時、視る無く聴く無く、思う無く作す無く、淡然として懐いを平らかにす。就ち是れ羲皇の世界なり。平旦の時、神は清く気は朗らかに、雍雍穆穆たり。就ち是れ堯・舜の世界なり。日中以前、礼儀、交会し、気象、秩然たり。就ち是れ三代の世界なり。日中以後、神気、漸く昏く、往来、雑擾す。就ち是れ春秋・戦国の世界なり。漸漸として昏夜、万物、寝息し、景象、寂寥たり。就ち是れ人消え物尽くるの世界なり。学者、良知を信じ得過ぎ、気の為に乱されずんば、便ち常に個の羲皇已上の人と做らん」と。
現代語訳
「人は一日の間に、古今の世界をすべて一度通り過ぎる。ただ、人が気づかないだけだ。夜気が清らかな時、見ることも聞くこともなく、思うことも為すこともなく、淡々として心が平らかだ。それが伏羲の世界だ。夜明けの時、精神は清く気は朗らかで、和やかで穆やかだ。それが堯・舜の世界だ。正午前、礼儀が交わり、秩序がある。それが三代の世界だ。正午後、精神は次第に昏くなり、往来が雑然とする。それが春秋・戦国の世界だ。次第に夜になり、万物が眠り、景色は寂しい。それが人も物も消え尽きる世界だ。学ぶ者が良知を信じ切り、気に乱されなければ、常に伏羲以前の人となる」。