伝習録 / 黄省曾録
先生曰:「無知無不知,本體原是如此。譬如日未嘗有心照物,而自無物不照。無照無不照,原是日的本體。良知本無知,今卻要有知,本無不知,今卻疑有不知,只是信不及耳。」
新字:先生曰:「無知無不知,本体原是如此。譬如日未嘗有心照物,而自無物不照。無照無不照,原是日的本体。良知本無知,今却要有知,本無不知,今却疑有不知,只是信不及耳。」
書き下し
先生曰く、「知る無く知らざる無しとは、本体は原と是くの如し。譬えば日は未だ嘗て心に物を照らす有らずして、自ら物として照らさざる無し。照らす無く照らさざる無きは、原と是れ日の本体なり。良知は本と知る無し。今、却って知る有らんことを要す。本と知らざる無し。今、却って知らざる有るかと疑う。只だ是れ信ずること及ばざるのみ」と。
現代語訳
先生は言われた。「知ることがなく、知らないこともない。本体はもともとそうだ。日は物を照らそうと心に思うことがないが、照らさない物はない。照らすこともなく照らさないこともないのが、日の本体だ。良知はもともと知ることがない。それなのに知ろうとする。もともと知らないこともない。それなのに知らないことがあるかと疑う。ただ、信じきれないだけだ」。
解説
私たちの心には、本来、すべてを知り、すべてを感じ取る力が備わっています。それは、太陽が意図せずとも万物を照らすように、自然に働くものです。何かを知ろうと焦ったり、逆に「自分には分からない」と疑ったりするのは、この心の力を信じきれていない証拠かもしれません。心の奥底にある、本来の「良知」の働きを信頼し、ありのままを受け入れることで、物事の本質が自然と見えてくるでしょう。
この章句が説くこと
良知本無知今却要有知本無不知今却疑有不知只是信不及耳
関連する章句
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伝習録・答陸原静書来書に云う、「良知にも亦た起こる処有り」と云云。此れ或いは之を聴くこと未だ審らかならず。良知なる者は、心の本体なり。即ち前に所謂る「恒に照らす」者なり。心の本体は、起こる無く起こらざる無し。妄念の発する有りと雖も、而して良知は未だ嘗て在らざるにあらず。但だ人、存するを知らざれば、則ち時有りて或いは放つのみ。昏塞の極と雖も、而して良知は未だ嘗て明らかならざるにあらず。但だ人、察するを知らざれば、則ち時有りて或いは蔽わるるのみ。時有りて或いは放つと雖も、其の体は実に未だ嘗て在らざるにあらず。之を存するのみ。時有りて或いは蔽わると雖も、其の体は実に未だ嘗て明らかならざるにあらず。之を察するのみ。若し真知にも亦た起こる処有りと謂わば、則ち是れ時有りて在らざるなり。其の本体の謂いに非ず。
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伝習録・黄省曾録先生曰く、「『惟だ天下の聖のみ、能く聡明睿知たりと為す』。旧に看るに何等か玄妙なる。今、看来たるに、原と是れ人人自ら有する的なり。耳は原と是れ聡、目は原と是れ明、心思は原と是れ睿知なり。聖人は只だ是れ之を一に能くするのみ。能くする処は正に是れ良知なり。衆人の能わざるは、只だ是れ個の知を致さざるなり。何等か明白簡易なる」と。
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伝習録・黄省曾録先生曰く、「『天に先んじて天も違わず』、天は即ち良知なり。『天に後れて天の時を奉ず』、良知は即ち天なり」と。
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伝習録・黄省曾録問う、「知は日に譬え、欲は雲に譬う。雲は能く日を蔽うと雖も、亦た是れ天の一気の合に有るべき的なり。欲も亦た人心に非ざる莫し。合に有るべきや否や」と。先生曰く、「喜・怒・哀・懼・愛・悪・欲、之を七情と謂う。七者は倶に是れ人心の合に有るべき的なり。但だ良知を認め得て明白なるを要す。比如(たと)えば日光は、亦た方所を指著すべからず。一隙も通明ならば、皆な是れ日光の在る所なり。雲霧、四塞すと雖も、太虚中の色象、辨ずべきは、亦た是れ日光の滅せざる処なり。雲の能く日を蔽うを以て、天をして雲を生ずるを要せざらしむべからず。七情は其の自然の流行に順わば、皆な是れ良知の用なり。善悪を分別すべからず。但だ著する所有るべからず。七情に著する有らば、倶に之を欲と謂う。倶に良知の蔽と為る。然れども纔(わず)かに著する有る時、良知も亦た自ら覚るを会(よ)くす。覚らば即ち蔽は去り、其の体に復す。此の処、能く勘得して破らば、方に是れ簡易透徹の功夫なり」と。
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伝習録・黄修易録先生、一日、出でて禹穴に遊ぶ。田間の禾を顧みて曰く、「能く幾何の時ぞ。又た此くの如く長ぜり」と。范兆期、傍らに在りて曰く、「此れ只だ是れ根有り。学問、能く自ら根を植えば、亦た長ずる無きを患えず」と。先生曰く、「人、孰か根無からん。良知は即ち是れ天の植えたる霊根なり。自ら生生して息まず。但だ私累を著け、此の根を戕賊蔽塞せば、発生するを得ざるのみ」と。
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伝習録・黄省曾録「良知は只だ是れ個の是非の心なり。是非は只だ是れ個の好悪なり。只だ好悪すれば、就ち是非を尽くせり。只だ是非すれば、就ち万事万変を尽くせり」と。又た曰く、「是非の両字は是れ個の大規矩なり。巧の処は則ち其の人に存す」と。
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