伝習録 / 答羅整菴少宰書
嗟乎!執事所以開導、啟迪於我者,可謂懇到、詳切矣。人之愛我,寧有如執事者乎?僕雖甚愚下,寧不知所感刻、佩服?然而不敢遽捨其中心之誠然而姑以聽受云者,正不敢有負於深愛,亦思有以報之耳。秋盡東還,必求一面,以卒所請,千萬終教。
新字:嗟乎!執事所以開導、啟迪於我者,可謂懇到、詳切矣。人之愛我,寧有如執事者乎?僕雖甚愚下,寧不知所感刻、佩服?然而不敢遽捨其中心之誠然而姑以聴受云者,正不敢有負於深愛,亦思有以報之耳。秋尽東還,必求一面,以卒所請,千万終教。
書き下し
嗟乎、執事の我に開導・啓迪する所以の者は、懇到・詳切と謂うべし。人の我を愛すること、寧ぞ執事の如き者有らんや。僕は甚だ愚下なりと雖も、寧ぞ感刻・佩服する所を知らざらんや。然り而して敢えて遽かに其の中心の誠然たるを捨てて、姑(しばら)く聴受すと云う者は、正に敢えて深愛に負く有らず、亦た以て之に報ゆる有らんことを思うのみ。秋尽きて東に還らば、必ず一面を求めて、以て請う所を卒えん。千万、終に教えよ。
現代語訳
ああ、あなたが私を導き啓いてくださったのは、まことに懇切で行き届いています。人が私を愛することに、あなたほどの方があろうか。私は愚かですが、感じ入り心に刻まないわけがない。それでも、すぐに自分の中心の誠を捨てて、しばらく承ると言わないのは、まさにあなたの深い愛に背かず、それに報いたいと思うからです。秋が尽きて東に帰ったら、必ず一度お会いして、お願いを果たします。どうか最後まで教えてください。
解説
相手への感謝や敬意は、ただ従うことだけではありません。心から納得していないのに、その場で同意することは、かえって相手の真摯な思いを裏切ることにもなりかねません。本当に相手を大切に思うからこそ、自分の誠実な考えを伝え、議論を尽くす姿勢が求められます。それは、時には異を唱える形になるかもしれませんが、その真剣な対話こそが、より深い信頼関係を築き、互いを高め合うことにつながるでしょう。
この章句が説くこと
正不敢有負於深愛亦思有以報之耳