中庸
《詩》云:「相在爾室,尚不愧于屋漏。」故君子不動而敬,不言而信。
書き下し
詩に云く、『爾(なんじ)の室に在るを相(み)るに、尚(な)お屋漏(おくろう)に愧(は)じず』と。故に君子は動かずして敬せられ、言わずして信ぜらる。
現代語訳
『詩経』に「あなたが自分の部屋に一人でいる姿を見ても、なお部屋の薄暗い隅にさえ恥じるところがない」とある。だから君子は、特別に何かをしなくても敬われ、何も言わなくても信じられるのである。
解説
前段をさらに一歩進めた一段です。部屋の一番暗い隅、誰の目も届かない場所にいてさえ、恥じるところがない。そこまで徹底された人は、もはや何もしなくても敬われ、何も言わなくても信じられるようになります。「不動而敬、不言而信」という到達点が示すのは、信頼の最終形です。アピールしなくても信じられる。実績を並べ立てなくても任される。この境地は、日々の見えない場所での積み重ねからしか生まれません。逆に言えば、どれほど雄弁に語っても、見えないところでの振る舞いが伴わなければ、信頼は根づきません。最後に効くのは、一人でいる時の自分の姿なのです。