呂氏春秋 / 審時⑧
是故得時之稼興,失時之稼約。莖相若稱之,得時者重,粟之多。量粟相若而舂之,得時者多米。量米相若而食之,得時者忍饑。是故得時之稼,其臭香,其味甘,其氣章,百日食之,耳目聰明,心意叡智,四衛變彊,𣧑氣不入,身無苛殃。黃帝曰:「四時之不正也,正五穀而已矣。」
新字:是故得時之稼興,失時之稼約。茎相若稱之,得時者重,粟之多。量粟相若而舂之,得時者多米。量米相若而食之,得時者忍饑。是故得時之稼,其臭香,其味甘,其気章,百日食之,耳目聰明,心意叡智,四衛変彊,𣧑気不入,身無苛殃。黄帝曰:「四時之不正也,正五穀而已矣。」
書き下し
是の故に時を得るの稼は興り、時を失うの稼は約す。莖相若く之を稱るに、時を得る者は重く、之を粟するに量多し。粟相若けば、之を舂くに、時を得る者は米量多し。米相若けば、之を食らうに、時を得る者は饑に忍う。是の故に時を得るの稼は、其の臭香しく、其の味甘く、其の氣章に、百日之を食らえば、耳目聰明に、心意叡智に、四衛變じて彊く、病氣入らず、身に苛殃無し。黃帝曰く、「四時は之を正せず、五穀を正すのみ。」
現代語訳
だから時機を得た作物は盛んに実り、時機を失った作物は未熟でひ弱である。茎が同じくらいのものを量ると、時を得たものは重く、脱穀すれば実が多い。同じ量の籾をついてみれば、時を得たものは精米が多い。同じ量の米を食べれば、時を得たものは腹持ちがよく飢えに耐えられる。だから時機を得た作物は、香りがよく、味は甘く、気力(滋養の力)が盛んで、百日食べ続ければ、耳目は聡明になり、心は叡智に富み、四肢は強くなり、病気が入り込まず、身に厳しい災いがない。黄帝は言った、『四季そのものは正すことができない。ただ適期に育てて五穀を正しく実らせるだけだ』と。
解説
審時篇そして農業技術論全体の結びとして、時機を得た作物の優れた点が総括されます。時を得た作物は同じ茎でも重く実り、精米も多く、腹持ちもよい。さらに香り・味・滋養にすぐれ、百日食べ続ければ耳目が聡く心が賢く、四肢が強くなって病を寄せつけない、と食と健康の結びつきまで説きます。結びの黄帝の言葉、四季は正せず、ただ五穀を正すのみは、人には天候そのものは変えられないが、適期に作物を育てることはできる、という農本思想の核心を示します。制御できない自然を嘆くより、人の力の及ぶ範囲で時機を尽くすというこの姿勢は、条件を受け入れて最善を尽くす現代の生き方にも通じます。