呂氏春秋 / 贊能②
管子束縛在魯。桓公欲相鮑叔。鮑叔曰:「吾君欲霸王,則管夷吾在彼,臣弗若也。」桓公曰:「夷吾,寡人之賊也,射我者也。不可。」鮑叔曰:「夷吾為其君射人者也。君若得而臣之,則彼亦將為君射人。」桓公不聽,強相鮑叔。固辭讓而相,桓公果聽之。於是乎使人告魯曰:「管夷吾,寡人之讎也,願得之而親加手焉。」魯君許諾,乃使吏鞹其拳,膠其目,盛之以鴟夷,置之車中。至齊境,桓公使人以朝車迎之,祓以爟火,釁以犧猳焉,生與之如國,命有司除廟筵几而薦之,曰:「自孤之聞夷吾之言也,目益明,耳益聰,孤弗敢專,敢以告於先君。」因顧而命管子曰:「夷吾佐予。」管仲還走,再拜稽首,受令而出。管子治齊國,舉事有功,桓公必先賞鮑叔,曰:「使齊國得管子者,鮑叔也。」桓公可謂知行賞矣。凡行賞欲其本也,本則過無由生矣。
新字:管子束縛在魯。桓公欲相鮑叔。鮑叔曰:「吾君欲覇王,則管夷吾在彼,臣弗若也。」桓公曰:「夷吾,寡人之賊也,射我者也。不可。」鮑叔曰:「夷吾為其君射人者也。君若得而臣之,則彼亦将為君射人。」桓公不聴,強相鮑叔。固辞譲而相,桓公果聴之。於是乎使人告魯曰:「管夷吾,寡人之讎也,願得之而親加手焉。」魯君許諾,乃使吏鞹其拳,膠其目,盛之以鴟夷,置之車中。至斉境,桓公使人以朝車迎之,祓以爟火,釁以犠猳焉,生与之如国,命有司除廟筵几而薦之,曰:「自孤之聞夷吾之言也,目益明,耳益聰,孤弗敢専,敢以告於先君。」因顧而命管子曰:「夷吾佐予。」管仲還走,再拝稽首,受令而出。管子治斉国,舉事有功,桓公必先賞鮑叔,曰:「使斉国得管子者,鮑叔也。」桓公可謂知行賞矣。凡行賞欲其本也,本則過無由生矣。
書き下し
管子は束縛せられて魯に在り。桓公、鮑叔を相にせんと欲す。鮑叔曰く、「吾が君、霸王たらんと欲すれば、則ち管夷吾、彼に在り。臣は若かざるなり。」桓公曰く、「夷吾は寡人の賊なり。我を射し者なり。不可なり。」鮑叔曰く、「夷吾は其の君の為に人を射し者なり。君若し得て之を臣とせば、則ち彼も亦た將に君の為に人を射んとせん。」桓公聽かず、強いて鮑叔を相とせんとす。固く辭して相を讓る,桓公果して之を聽く。是に於てか人をして魯に告げしめて曰く、「管夷吾は寡人の讎なり。願わくば之を得て親ら手を加えん。」魯君許諾し、乃ち吏をして其の拳を鞹し、其の目を膠し、之を盛るに鴟夷を以てし、之を車中に置かしむ。齊の境に至るや、桓公、人をして朝車を以て之を迎え、祓うに爟火を以てし、釁するに犧猳を以てし、生かして之と國に如かしむ。有司に命じて廟を除わしめ、筵几して之に薦めて曰く、「孤の夷吾の言を聞きし自り、目は益々明らかに、耳は益々聰なり。孤敢て專らにせず。敢て以て先君に告ぐ。」因りて顧みて管子に命じて曰く、「夷吾、予を佐けよ。」管仲還り走り、再拜稽首して、令を受けて出づ。管子、齊國を治め、事を舉げて功有れば、桓公必ず先づ鮑叔を賞して曰く、「齊國をして管子を得しめし者は、鮑叔なり。」桓公は賞を行うことを知れりと謂う可し。凡そ賞を行うには其の本を欲す。本なれば則ち過ち由りて生ずること無ければなり。
現代語訳
管仲は捕縛されて魯にいた。斉の桓公は鮑叔を宰相にしようとした。鮑叔は言った、「わが君が覇王になろうとお望みなら、管夷吾(管仲)があちらにいます。私は彼に及びません」。桓公は「夷吾は私の敵だ。私を射た者だ。だめだ」と言った。鮑叔は「夷吾は当時の主君のために人を射たのです。君が彼を得て臣とすれば、彼は今度は君のために人を射るでしょう」。桓公は聞き入れず、無理に鮑叔を宰相にしようとしたが、鮑叔は固辞して相の位を譲り、桓公はついにこれを聞き入れた。そこで魯に使者を送り、「管夷吾は私の仇だ。ぜひ手に入れて自らの手で処罰したい」と告げた。魯君は承知し、役人に管仲の手を革で包み、目を膠で塞ぎ、鴟夷(革袋)に入れて車に乗せた。斉の国境に至ると、桓公は朝廷の車で迎え、爟火で祓い清め、いけにえの雄豚で釁(ちぬり)の儀を行い、生かして共に都に入った。役人に命じて廟を清め、筵几を設けて管仲を先君に捧げて言った、「私は夷吾の言葉を聞いてから、目はますます明らかに、耳はますます聡くなった。私が独断せず、先君に申し上げるのだ」。そして振り返って管仲に命じた、「夷吾よ、私を助けよ」。管仲は小走りに退き、再拝稽首して命を受けて退出した。管仲が斉を治めて事を成し功を挙げるたび、桓公は必ずまず鮑叔を賞して「斉に管仲を得させたのは鮑叔だ」と言った。桓公は賞の行い方を知っていたといえる。およそ恩賞は本(源)に及ぼしたい。本に報いれば、過ちが生じることもないからである。