呂氏春秋 / 察傳①
夫得言不可以不察,數傳而白為黑,黑為白。故狗似玃,玃似母猴,母猴似人,人之與狗則遠矣。此愚者之所以大過也。聞而審則為福矣,聞而不審,不若無聞矣。齊桓公聞管子於鮑叔,楚莊聞孫叔敖於沈尹筮,審之也,故國霸諸侯也。吳王聞越王句踐於太宰嚭,智伯聞趙襄子於張武,不審也,故國亡身死也。
新字:夫得言不可以不察,数伝而白為黒,黒為白。故狗似玃,玃似母猴,母猴似人,人之与狗則遠矣。此愚者之所以大過也。聞而審則為福矣,聞而不審,不若無聞矣。斉桓公聞管子於鮑叔,楚荘聞孫叔敖於沈尹筮,審之也,故国覇諸侯也。吳王聞越王句践於太宰嚭,智伯聞趙襄子於張武,不審也,故国亡身死也。
書き下し
夫れ言を得ては以て察せざる可からず。數傳すれば白は黑と為り、黑は白と為る。故に狗は玃に似、玃は母猴に似、母猴は人に似たり。人の狗とは則ち遠し。此れ愚者の大いに過つ所以なり。聞きて審にすれば則ち福い為り、聞きて審にせざれば、聞くこと無きに若かず。齊の桓公は管子を鮑叔に聞き、楚莊は孫叔敖を沈尹筮に聞きて、之を審らかにす。故に國、諸侯に霸たり。呉王は越王句踐を太宰嚭に聞き、智伯は趙襄子を張武に聞きて、審らかにせざるなり。故に國亡び身死せるなり。
現代語訳
言葉は聞いたら必ずよく吟味しなければならない。何度も伝わるうちに、白が黒になり黒が白になる。犬は玃に似、玃は母猴に似、母猴は人に似ているが、人と犬とはかけ離れている。似た者を次々つなげると似ても似つかぬものになるのだ。これが愚者が大きく過つ理由である。聞いて吟味すれば幸いとなるが、聞いて吟味しなければ、聞かない方がましである。斉の桓公は管仲のことを鮑叔から聞き、楚の荘王は孫叔敖のことを沈尹筮から聞いて、それをよく確かめた。だから国は諸侯の覇者となった。呉王は越王句踐のことを太宰嚭から聞き、智伯は趙襄子のことを張武から聞いたが、よく確かめなかった。だから国は滅び身は死んだのである。
解説
この篇「察傳」の総論で、人づてに伝わる言葉は必ずよく吟味せよと説く一段です。伝聞は繰り返されるうちに白が黒になるほど変質し、犬・玃・母猴・人と似た者を順につないでいくと元とかけ離れてしまうように、鵜呑みにすれば大きな過ちを招くといいます。斉の桓公や楚の荘王は人物評をよく確かめて覇者となり、呉王や智伯は確かめずに国を滅ぼし身を亡ぼしたと対比されます。戦国期は流言や人物評が政治を大きく動かした時代でした。聞いた話をそのまま信じず、事実を確かめる姿勢が成否を分けるという教えは、真偽不明の情報が瞬時に拡散し変質していく現代の情報リテラシーにも、そのまま通じる普遍的な戒めです。