呂氏春秋 / 壹行①
先王所惡,無惡於不可知,不可知則君臣、父子、兄弟、朋友、夫妻之際敗矣。十際皆敗,亂莫大焉。凡人倫以十際為安者也,釋十際則與麋鹿虎狼無以異,多勇者則為制耳矣。不可知則知無安君、無樂親矣,無榮兄、無親友、無尊夫矣。
新字:先王所悪,無悪於不可知,不可知則君臣、父子、兄弟、朋友、夫妻之際敗矣。十際皆敗,乱莫大焉。凡人倫以十際為安者也,釈十際則与麋鹿虎狼無以異,多勇者則為制耳矣。不可知則知無安君、無楽親矣,無栄兄、無親友、無尊夫矣。
書き下し
先王の惡む所は、知る可からざるよりも惡むは無し。知る可からざれば則ち君臣・父子・兄弟・朋友・夫妻の際敗れん。十際皆敗るれば、亂焉より大なるは莫し。凡そ人倫は十際を以て安きを為す者なり。十際を釋つれば、則ち麋鹿・虎狼と以て異なる無く、勇多き者則ち制を為すのみ。知る可らざれば則ち安君無く、樂親無く、榮兄無く、親友無く、尊夫無し。
現代語訳
先王が憎んだもので、人柄が知りがたいことほど憎むべきものはない。人柄が知りがたければ、君臣・父子・兄弟・朋友・夫妻の交わりが壊れてしまう。この十の関係がすべて壊れれば、これほど大きな乱はない。およそ人の道は、この十の関係によって安定するものである。十の関係を捨てれば、鹿や虎狼と変わりがなく、力の強い者が支配するだけになる。人柄が知りがたければ、安んじられる君主もなく、楽しめる親もなく、誇れる兄もなく、親しめる友もなく、尊べる夫もいなくなる。
解説
この篇「壹行」の総論で、人の心が知りがたいこと、つまり言行が一貫せず信頼できないことこそが最も憎むべきものだと説く一段です。人柄が読めなければ、君臣・父子・兄弟・朋友・夫妻という人間関係の要(十際)がことごとく壊れ、社会は力の強い者が支配するだけの獣の世界に堕ちると警告します。儒家的な人倫の秩序を重んじる立場から、呂氏春秋は信頼できる一貫した人格の大切さを強調しました。相手が何を考え何をするか予測できる、裏表のない誠実さこそが、あらゆる人間関係を安定させる土台だという指摘です。信頼が組織や社会を成り立たせる基盤であることは現代も変わらず、言行一致の誠実さがいかに重い価値を持つかを教えてくれます。