呂氏春秋 / 無義③
鄭平於秦王臣也,其於應侯交也,欺交反主,為利故也。方其為秦將也,天下所貴之無不以者,重也。重以得之,輕必失之。去秦將,入趙、魏,天下所賤之無不以也,所可羞無不以也。行方可賤可羞,而無秦將之重,不窮奚待?
新字:鄭平於秦王臣也,其於応侯交也,欺交反主,為利故也。方其為秦将也,天下所貴之無不以者,重也。重以得之,輕必失之。去秦将,入趙、魏,天下所賤之無不以也,所可羞無不以也。行方可賤可羞,而無秦将之重,不窮奚待?
書き下し
鄭平の秦王に於けるや臣なり、其の應侯に於けるや交なり。交を欺き主に反けるは、利の為の故なり。其の秦の將為るに方りてや、天下之を貴ぶ所は、以てせざる無き者は重ければなり。重くして以て之を得れば、輕くして必ず之を失う。秦の將を去りて、趙・魏に入るや、天下之を賤しむ所、以てせざる無きなり、羞づ可しとする所、以てせざる無きなり。行い方に賤しむ可く羞づ可くして、秦の將の重き無し。窮せずして奚をか待たん。
現代語訳
鄭平は秦王に対しては臣下であり、応侯に対しては旧友であった。その旧友を欺き主君に背いたのは、利益のためであった。彼が秦の将軍であった時、天下の人々が彼を尊んでどんなことでもしたのは、その地位が重かったからである。重い地位ゆえに得たものは、地位が軽くなれば必ず失う。秦の将軍の地位を去って趙・魏に入ると、天下の人々は彼を賤しみ、どんな軽蔑もし、恥ずべき扱いもした。行いはまさに賤しみ恥じるべきもので、しかも秦の将軍という重い地位もない。困窮しないでどうしていられようか。
解説
鄭平という人物が、旧友を欺き主君に背いてまで利益を追い、結局は身の破滅を招いた例を論じる一段です。彼が秦の将軍であったときは、その重い地位ゆえに天下がこぞって敬いましたが、地位を捨てて趙や魏へ移ると、今度は誰もが彼を賤しみ辱めました。呂氏春秋は、地位の重さで得たものは地位を失えば必ず失われると述べ、義を欠いた者が権勢を頼みにすることの脆さを説きます。戦国期は臣下が主君を渡り歩き利によって動くことが珍しくありませんでしたが、著者はそうした処世を厳しく批判しました。肩書きや権力によって得た評価は、その裏付けを失えば一瞬で崩れるという指摘は、地位に依存した信用のはかなさを教え、実質を伴わない成功を戒める現代への警鐘ともなっています。