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呂氏春秋 / 淫辭③

孔穿、公孫龍相與論於平原君所,深而辯,至於藏三牙,公孫龍言藏之三牙甚辯,孔穿不應,少選,辭而出。明日,孔穿朝。平原君謂孔穿曰:「昔者公孫龍之言甚辯。」孔穿曰:「然。幾能令藏三牙矣。雖然難。願得有問於君,謂藏三牙甚難而實非也,謂藏兩牙甚易而實是也,不知君將從易而是者乎?將從難而非者乎?」平原君不應。明日,謂公孫龍曰:「公無與孔穿辯。」

新字:孔穿、公孫竜相与論於平原君所,深而辯,至於蔵三牙,公孫竜言蔵之三牙甚辯,孔穿不応,少選,辞而出。明日,孔穿朝。平原君謂孔穿曰:「昔者公孫竜之言甚辯。」孔穿曰:「然。幾能令蔵三牙矣。雖然難。願得有問於君,謂蔵三牙甚難而実非也,謂蔵両牙甚易而実是也,不知君将従易而是者乎?将従難而非者乎?」平原君不応。明日,謂公孫竜曰:「公無与孔穿辯。」

書き下し

孔穿、公孫龍、相與に平原君が所に論ず。深くして辯、藏三耳に至る。公孫龍、藏の三のみなるを言うこと甚だ辯なり。孔穿應えず。少選にして、辭して出づ。明日、孔穿朝す。平原君、孔穿に謂いて曰く、「昔者、公孫龍の言は甚だ辯なり。」孔穿曰く、「然り。能く藏をして三のみにならしむるに幾し。然りと雖も難し。願わくは君に問う有るを得ん。藏の三のみなるを謂うこと甚だ難くして實は非なり。藏の兩つのみなるを謂うこと甚だ易くして實は是なり。知らず、君將た易くして是なる者に從わんか、將た難くして非なる者に從わんか。」平原君應えず。明日、公孫龍に謂いて曰く、「公、孔穿と辯ずること無かれ。」

現代語訳

孔穿と公孫龍が平原君のもとでともに論じ合った。議論は深く弁も鋭く、蔵に耳が三つあるという説にまで及んだ。公孫龍は蔵に耳が三つあると論じて実に弁が立った。孔穿は答えず、しばらくして挨拶して退出した。翌日、孔穿が朝廷に出た。平原君は孔穿に言った、「昨日の公孫龍の弁論は実に見事だった。」孔穿は言った、「そうです。蔵の耳を三つだと言いくるめる寸前でした。しかし難しい。あなたにお尋ねしたい。蔵に耳が三つあると論じるのは非常に難しいが実は誤りです。蔵に耳が二つと論じるのは非常にやさしいが実は正しい。あなたはやさしくて正しい方に従いますか、難しくて誤った方に従いますか。」平原君は答えなかった。翌日、公孫龍に言った、「あなたは孔穿と議論するのはよしなさい。」

解説

この段は、名家の公孫龍が蔵に耳が三つあると論じ立てるのを、孔穿が巧みに批判する話です。孔穿は、三つと言い張るのは難しいが誤りで、二つと言うのはやさしいが正しい、あなたは難しく誤った説とやさしく正しい説のどちらを取るかと平原君に迫ります。要点は、弁論の難しさや巧みさは真理の証にならず、易しくても正しい方を選ぶべきだということです。詭弁で常識を覆す名家への批判が背景にあります。現代でも、込み入った理屈で人を煙に巻く議論は説得力があるように見えます。しかし、論の技巧に幻惑されず、素朴でも事実に合う結論を選ぶ判断力が大切だと教える一段です。

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