呂氏春秋 / 節喪③
古之人有藏於廣野深山而安者矣,非珠玉國寶之謂也,葬不可不藏也。葬淺則狐狸抇之,深則及於水泉。故凡葬必於高陵之上,以避狐狸之患、水泉之溼。此則善矣,而忘姦邪盜賊寇亂之難,豈不惑哉?譬之若瞽師之避柱也,避柱而疾觸杙也。狐狸水泉姦邪盜賊寇亂之患,此杙之大者也。慈親孝子避之者,得葬之情矣。善棺槨,所以避螻蟻蛇蟲也。今世俗大亂,之主愈侈,其葬則心非為乎死者慮也,生者以相矜尚也。侈靡者以為榮,節儉者以為陋,不以便死為故,而徒以生者之誹譽為務,此非慈親孝子之心也。父雖死,孝子之重之不怠;子雖死,慈親之愛之不懈。夫葬所愛所重,而以生者之所甚欲,其以安之也,若之何哉?
新字:古之人有蔵於広野深山而安者矣,非珠玉国宝之謂也,葬不可不蔵也。葬浅則狐狸抇之,深則及於水泉。故凡葬必於高陵之上,以避狐狸之患、水泉之溼。此則善矣,而忘姦邪盗賊寇乱之難,豈不惑哉?譬之若瞽師之避柱也,避柱而疾触杙也。狐狸水泉姦邪盗賊寇乱之患,此杙之大者也。慈親孝子避之者,得葬之情矣。善棺槨,所以避螻蟻蛇虫也。今世俗大乱,之主愈侈,其葬則心非為乎死者慮也,生者以相矜尚也。侈靡者以為栄,節倹者以為陋,不以便死為故,而徒以生者之誹誉為務,此非慈親孝子之心也。父雖死,孝子之重之不怠;子雖死,慈親之愛之不懈。夫葬所愛所重,而以生者之所甚欲,其以安之也,若之何哉?
書き下し
古の人、廣野深山に藏して安んぜし者有り。珠玉國寶の謂に非ざるなり。葬は藏ぜざる可からざるなり。葬淺ければ則ち狐狸之を抇り、深ければ則ち水泉に及ぶ。故に凡そ葬は必ず高陵の上に於いてし、以て狐狸の患、水泉の溼を避く。此れ則ち善なり、而れども姦邪・盜賊・寇亂の難を忘るるは、豈に惑わざらんや。之を譬うれば、瞽師の柱を避くるが若し、柱を避けて疾く杙に觸るなり。狐狸・水泉・姦邪・盜賊・寇亂の患いは、此れ杙の大なる者なり。慈親孝子、之を避くる者は、葬の情を得たり。棺槨を善くするは、螻蟻・蛇蟲を避くる所以なり。今、世俗は大いに亂れ、人主は愈々侈にして、其の葬は則ち心死者の為に慮るに非ざるなり。生者以て相矜尚するなり。侈靡なる者は以て榮と為し、節儉なる者は以て陋と為し、死に便ずるを以て故と為さずして、徒らに生者の誹譽を以て務と為す、此れ慈親孝子の心に非ざるなり。父死すと雖も、孝子の之を重んずること怠らず、子死すと雖も、慈親の之を愛すること懈らず。夫れ愛する所重んずる所のものを葬るに、生者の甚だ欲する所を以てす。其の以て之を安んずるや、之を若何せんや。
現代語訳
昔の人で、広野や深山に葬られて安らかであった者がいる。それは珠玉や国宝を埋めたからというのではなく、葬りはきちんと蔵めなければならないからである。浅く葬れば狐や狸が掘り返し、深く葬れば水脈に達する。だからおよそ葬りは必ず高い丘の上にして、狐狸の害や水気の湿りを避ける。これはよいことだが、盗賊や兵乱による危難を忘れているのは、どうして惑いでないだろうか。たとえば盲人の楽師が柱を避けようとして、柱を避けたはずが杭に激しくぶつかるようなものだ。狐狸・水気・盗賊・兵乱の害は、この杭の大きなものである。慈しみ深い親や孝子でこれを避ける者こそ、葬りの本質を得ている。棺や槨を丈夫にするのは、けらや蟻、蛇や虫を避けるためである。ところが今の世俗は大いに乱れ、君主はますます奢り、その葬りは死者のために考えているのではなく、生者が互いに見栄を張り合っているのだ。奢侈な者は名誉とし、倹約な者は卑しいとし、死者に都合よくすることを目的とせず、ただ生者の毀誉褒貶ばかりを事とする。これは慈親孝子の心ではない。父が死んでも孝子が敬う心は衰えず、子が死んでも慈親が愛する心は緩まない。その愛し敬う者を葬るのに、生者の欲するもの(豪華な副葬)を用いる。それで死者を安んじられようか、いったいどうしてか。