呂氏春秋 / 音初①
夏后氏孔甲田于東陽萯山,天大風晦盲,孔甲迷惑,入于民室,主人方乳,或曰「后來(見)〔是〕良日也,之子是必大吉」,或曰「不勝也,之子是必有殃」。后乃取其子以歸,曰:「以為余子,誰敢殃之?」子長成人,幕動拆(撩)〔橑〕,斧斫斬其足,遂為守門者。孔甲曰:「嗚呼!有疾,命矣夫!」乃作為《破斧》之歌,實始〔作〕為東音。
新字:夏后氏孔甲田于東陽萯山,天大風晦盲,孔甲迷惑,入于民室,主人方乳,或曰「后来(見)〔是〕良日也,之子是必大吉」,或曰「不勝也,之子是必有殃」。后乃取其子以歸,曰:「以為余子,誰敢殃之?」子長成人,幕動拆(撩)〔橑〕,斧斫斬其足,遂為守門者。孔甲曰:「嗚呼!有疾,命矣夫!」乃作為《破斧》之歌,実始〔作〕為東音。
書き下し
夏后氏孔甲、東陽の萯山に田す。天大いに風き晦盲なり。孔甲迷惑し、民室に入るに、主人方に乳む。或ひと曰く、「后來たる是れ良日なり。之の子是れ必ず大吉なり。」或ひと曰く、「勝えざるなり、之の子是れ必ず殃有り。」后乃ち其の子を取りて以て歸る、曰く、「以て余が子と為せば、誰か敢て之を殃せん。」子長じて人と成る。幕動き橑を坼く、斧其の足を斫斬す。遂に守門者と為れり。孔甲曰く、「嗚呼、疾有るは、命なるかな。」乃ち破斧の歌を作為す、實に始めて東音を為る。
現代語訳
夏后氏の孔甲が東陽の萯山で狩りをした。天は大いに風が吹き暗くなった。孔甲は道に迷い、民家に入ると、その家の主人はちょうど子を産んだところだった。ある人は「王がおいでになった、これは吉日だ。この子はきっと大吉となる」と言い、ある人は「王の運には勝てまい、この子はきっと災いに遭う」と言った。孔甲はその子を取って連れ帰り、「私の子とすれば、誰があえてこれに災いを及ぼそうか」と言った。子は成長して大人となった。天幕が動いて垂木が裂け、斧がその足を斬った。そこで門番となった。孔甲は「ああ、障害を負ったのは運命だなあ」と言い、そこで『破斧』の歌を作った。これが実に東方の音楽(東音)の始まりである。