呂氏春秋 / 仲夏④
是月也,(長日)〔日長〕至。陰陽爭,死生分。君子齋戒,處必揜身,欲靜無躁,止聲色,無或進,薄滋味,無致和,退嗜慾,定心氣,百官靜,事無(刑)〔徑〕,以定晏陰之所成。鹿角解。蟬始鳴。半夏生,木堇榮。
新字:是月也,(長日)〔日長〕至。陰陽争,死生分。君子斎戒,処必揜身,欲静無躁,止声色,無或進,薄滋味,無致和,退嗜慾,定心気,百官静,事無(刑)〔径〕,以定晏陰之所成。鹿角解。蟬始鳴。半夏生,木堇栄。
書き下し
是の月や、日の長きこと至り、陰陽爭い、死生分かる。君子齋戒し、處るには必ず揜くし、身は靜かにして躁ぐこと無く、聲色を止め、進むること或る無く、滋味を薄くし、和を致すこと無く、嗜慾を退け、心氣を定めんことを欲す。百官は靜かにし、事は刑すること無く、以て晏陰の成す所を定む。鹿角は解ち、蟬は始めて鳴き、半夏生じ、木堇榮く。
現代語訳
この月には、昼の長さが最も長くなる夏至を迎える。陰と陽の気が争い、死と生が分かれる。君子は身を清めて慎み、住まいの奥深くにこもり、心身を静かに保って騒がず、音楽や女色を遠ざけ、寝所に侍らせることをせず、味付けを薄くして美味を求めず、欲望を抑え、心と気を落ち着けようとする。役人たちも静かにし、事は軽々しく行わず、こうしてかすかな陰の気がもたらすものを安定させる。鹿の角は落ち、蝉が鳴きはじめ、からすびしゃくが生え、むくげが花咲く。
解説
夏至を境に、極まった陽気の中に陰気が生じはじめる転換点を説いた段です。昼が最長となる夏至は、陽が頂点に達し同時に衰えへ向かう分かれ目で、そこに「陰陽が争い死生が分かれる」という緊張が読み取られます。だからこそ君子は身を慎み、欲望や刺激を抑えて心気を静め、生じたばかりのかすかな陰の気を乱さぬよう努めます。鹿角の脱落や蝉の初鳴といった物候も、季節の反転を告げる徴です。極盛のときにこそ抑制と静養を説くこの発想は、勢いの頂点で油断せず身を整える現代の自己管理やリスク意識にも通じます。