呂氏春秋 / 孟夏①
孟夏之月:日在畢,昏翼中,旦婺女中。其日丙丁。其帝炎帝。其神祝融。其蟲羽。其音徵。律中仲呂。其數七。其性禮。其事視。其味苦。其臭焦。其祀竈。祭先肺。螻蟈鳴。丘蚓出。王(善)〔菩〕生。苦菜秀。天子居明堂左个,乘朱輅,駕赤駵,載赤旂,衣赤衣,服赤玉,食菽與雞。其器高以觕。
新字:孟夏之月:日在畢,昏翼中,旦婺女中。其日丙丁。其帝炎帝。其神祝融。其虫羽。其音徴。律中仲呂。其数七。其性礼。其事視。其味苦。其臭焦。其祀竈。祭先肺。螻蟈鳴。丘蚓出。王(善)〔菩〕生。苦菜秀。天子居明堂左个,乗朱輅,駕赤駵,載赤旂,衣赤衣,服赤玉,食菽与雞。其器高以觕。
書き下し
孟夏の月、日は畢に在り、昏に翼中し、旦に婺女中す。其の日は丙丁、其の帝は炎帝、其の神は祝融、其の蟲は羽、其の音は徵、律は仲呂に中たる。其の數は七、其の性は禮、其の事は視、其の味は苦、其の臭は焦、其の祀は竈、祭るには肺を先にす。螻蟈鳴き、丘蚓出で、王菩生じ、苦菜秀づ。天子、明堂の左個に居り、朱輅に乘り、赤駵を駕し、赤旂を載て、赤衣を衣、赤玉を服び、菽と雞とを食らう。其の器は高にして以て觕なり。
現代語訳
孟夏(初夏、四月)の月には、太陽は畢の星宿にあり、夕方には翼の星宿が南中し、明け方には婺女(女宿)が南中する。その日の十干は丙丁、司る帝は炎帝、その神は祝融、あてる虫は羽虫、音階は徵、音律は仲呂に配当される。その数は七、性は礼、事は視、味は苦、臭いは焦げくさい匂い、まつる神は竈神で、犠牲を供えるにはまず肺を供える。この時季には螻蟈(ひきがえる)が鳴き、みみずが地上に出て、からすうり(王菩)が生え、のげし(苦菜)が花をつける。天子は明堂の左の部屋に住み、朱塗りの車に乗り、赤い馬を駕し、赤い旗を立て、赤い衣を着、赤い玉を身につけ、豆と鶏肉を食べる。用いる器は背が高くて粗大なものである。
解説
この段は、暦を司る月令(がつりょう)の思想に基づき、孟夏(初夏)に天子がとるべき生活と祭祀の作法を列挙します。太陽の位置や南中する星宿、十干・帝・神・虫・音・律・数・味などを、五行説にいう「火」の徳に配当し、赤い車・赤い衣・豆と鶏肉といった具体的な行動まで対応づけているのが特徴です。背景には、天体の運行と人間界の政治や生活を一つの秩序として捉え、季節にかなった振る舞いをすれば天地と調和できるという古代中国の世界観があります。現代でも、季節の移り変わりに合わせて衣食住や仕事のリズムを整える発想として読み解くことができ、自然の周期を無視しない暮らし方の原型を示しています。